不気味な何かに呑み込まれていく気がした。小説『夜行』森見登美彦 感想・書評

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こんにちは!

Ash(アッシュ)@oborerublogです。

「恐ろしい物語を読んでしまった…、そして分からない。」それが読了した直後の率直な感想です。

森見登美彦さんの描く小説『夜行』を読んだので感動・解釈を書き殴ります。

  • ゾクゾクするホラーが好き
  • 森見登美彦さんのファン
  • 謎が謎を呼ぶ展開が見たい

このような方におすすめです。

ネタバレ有りです。ご容赦ください。

『夜行』とは?

直木賞×本屋大賞のダブルノミネート!

著者の森見登美彦さんの小説は僕自身初めましてでした。

主な作品はというと、

  • 『夜は短し歩けよ乙女』
  • 『四畳半神話体系』
  • 『有頂天家族』

『四畳半神話体系』はアニメで見たことがあったので、個人的に期待が大きい作品でした。

「世界はつねに夜なのよ」

ジャンルはホラー×青春×ファンタジーと謳われています。

ですが、青春要素はほとんどないかな…といった感じです。それくらいホラー色の強い作品でした。

第一夜 尾道

語り部は中井さん。

『変身した妻を連れ戻す』物語。

二階に籠るようになったのはなぜ?

不可解な点を上げていくとキリがありません。

  • そもそもなぜ妻は尾道の高台の一軒家で籠ることになったのか?
  • 変身とは一体なのか?
  • なぜホテルマンを殴ったのか?

まず、妻が二階に籠るようになったのは中井さんが束縛していたからではないかと考えています。

中井さんは妻が尾道を訪れる以前から束縛していて、それから逃げるように家を出たのではないでしょうか?

そう考えると少しずつ辻褄があってくる部分が出てきます。もちろん分からないことも山積みですが。

妻の変身は夫の変身

中井さんがホテルマンを殴るという衝撃展開の後、妻を迎えに行き高台の一軒家に向かう途中にこんな文章が登場しました。

そのとき僕はようやく確信したのだ——妻の変身は僕の変身でもあるということを。

変身とはいったい何なのか?

”妻は束縛をしているという事実を客観的に中井さんに見せていた。”

という結論に達しました。

ホテルマンを諸悪の根源のようだと比喩して、嫌悪感を抱いていました。中井さんの束縛する人格なのではないのでしょうか?

ホテルマンの頭を打ち砕く=束縛していた人格を打ち砕く

だから、本当の妻は中井さんの目の前に現れたのだと思います。

ただ、最後の文章で再び疑問がさらに深まってしまいました。

そして僕らは固く手をつなぎ、高台の一軒家へ帰っていった。

「え⁉家に帰るんじゃないの?」と思いませんでしたか?

家は東京だと冒頭にあったのに高台の一軒家ということは尾道から帰らないということになる。

つまり『変身した妻を取り戻す』取り戻すという言葉は”変身前の妻に戻す”という意味であって、”尾道から東京に連れて帰る”いう意味ではなかったようです。

第一章から恐ろしい展開で僕は耐えられず、本を閉じてしまいました。

もうすでにこの時点で夜に呑み込まれていたのかもしれません。

第二夜 奥飛騨

語り部は武田さん。

閉じ込められた『密室』の物語。

っていうか、当たり前のように第二章が始まっておかしいと思いませんでした?

第一章の中井さん旅の話について誰かが言及している描写が一つもない。

(ツッコむところばっかりだったじゃん!)と思いつつも読み進めるわけですが、そういった部分もこの『夜行』という作品の不気味さを演出している一つの要素なのかもしれません。

死相は誰と誰に?

四人で奥飛騨へ向かう旅でした。

ここでも不可解な点は多数。

  • 死相は誰に?
  • 瑠璃さんの曖昧な態度
  • 二手に分かれた本当の意図
  • いったい何角関係か?

ミシマさんの「死相がお二方に出ている。」という発言から一気に不穏な世界に誘われたような気がします。

恐ろしかったのはところどころの瑠璃さんの発言。

「あの山道を通って私たちはどこへ着いたんでしょうね。武田さん、ここが本当に奥飛騨だと思ってるの?」

終始、何のことを言っているのか掴めないという印象でした。

ただ、他の三人が気づいていないことにまで瑠璃ちゃんは完全に把握しているというような言い方のように感じられます。

何がどこで起きた?

これに関して僕の解釈は3パターンあります。

1つ目は増田さん×瑠璃さんが殺されたパターン。

最後にとんでもないカミングアウトがありましたね。

美弥さんは何も言わず、隣にやってきて湯に身体を沈めました。そうして僕の肩に頬をつけて目を閉じました。こんな風に身体を寄せ合うのは久しぶりのことだと僕は思いました。

増田さん×美弥さん×瑠璃さんの三角関係だと思っていたら、そこに武田さんも加わっていたというまさかの四角関係。

増田さん×瑠璃さんの関係を疑っている描写もありましたし、「二手に分かれよう」と切り出したのも美弥さんでした。

分かれた時にそれぞれが殺されたと予想できます。

2つ目は武田さん×美弥さんが殺されたパターン。

瑠璃さんのセリフから武田さん×美弥さんの関係はすでに知っていると考えるべき。

喫茶店では額を寄せて囁き合っている場面もありました。計画を立てていたのかもしれません。

トンネルの手前でトランクを探っているところで、武田さん×美弥さんは殺されたのではないのか?と予想します。死体の処理をしていたのでしょうか?。

どのくらい時間が経ってからか分かりませんが、ふいに耳元で誰かの悲鳴が聞こえたような気がして、僕はハッと身を起こしました。

悲鳴が聞こえたというのもここですからね。何か起きたと考えるのが自然です。

しかし、武田さんの語りなのに本人が殺されるという展開はあり得るのか?という疑問は拭いきれません。

3つ目は交通事故が起きたパターン。

「眠らないでくれよ。君が眠ったら、俺まで眠くなる。」

『夜行——奥飛騨』でトンネルが描かれていることから、トンネルは物語の転換点ともいえるでしょう。

居眠り運転という説も捨てきれません。

亡くなったペアとしてはどちらでも考えられます。

というようにたくさん予想ができて、それぞれに不可解な点が残ってしまうので何も確定することができませんでした。

至るとことで歪みが生じていた物語。

第三夜 津軽

語り部は藤村玲子さん。長谷川さん以外では唯一の女性です。

記憶を『再燃』させる物語。

何を言い淀んだのか?

旅の前に『夜行——津軽』を玲子さんと児島君が見ていた時の描写が僕は引っ掛かります。

「へぇ。夜の世界か」

児島君は感心したように呟きました。それから彼は何か言いたそうにしていましたが、その先を続けようとはしません。ただ私の隣に立って銅版画を見つめています。

「絵の中の女性が玲子さんに似ている。」と児島君は言いたかったかもしれないと最初は考えました。

ただ、読み終わってもう一度考えると、児島君は玲子さんに好意を抱いていたのではないかと思ったりします。

そう考えると「玲子さんと一緒に夜の世界に行ってみたい。」と言いたかったのでは?と推測できます。

この作品はどの章も共通して男女の物語とも捉えることができるかもしれない。

僕の勝手な憶測ですが。

絵の中に呑み込まれる条件

不思議な体験をしてしまう条件として、絵の中の女性に具体的な人物を重ねてしまうことが挙げらるのではないでしょうか?

  • 児島君 →玲子さん
  • 玲子さん→佳奈ちゃん
  • 夫   →玲子さん

この章では登場人物のそれぞれが三角屋根の家に女性を見て、そこに具体的な人物を重ねてしまっています。

この三人はそれぞれが絵の中に呑み込まれていったのかもしれません。

第四夜 天竜峡

語り部は田辺さん。

広大な魔境の夜の物語。

惹かれる表現たち

個人的に魅力的な表現の多い章だったなと感じました。

春風の花を散らすとみる夢は

さめても胸の騒ぐなりけり

西行法師が歌ったものになり、訳としては「春風が桜の花をふき散らす夢は覚めてもなおその美しさに私の胸は掻き乱されています」といったところでしょうか?

夢というのは夜に呑み込まれている時間を指している気がします。

他にも天竜峡に着いた時の田辺さんのセリフ。

「もうすぐ夜に追いつかれるな」

この表現には惚れましたね。

底知れない闇がすぐそこまで迫っていると言わんばかりの表現。

変わった言葉は使っていないのに、たった一文でこんなに恐ろしさを読者に伝えられることに感動しました。

夜行に書かれた女性とは誰?

佐伯さんは『夜行』の女性のことを岸田さんの妄想の女と言った。

田辺さんは列車に乗っていた女子高生のことを岸田さんが魔境を旅して出会った鬼と言った。

結局、確定できることは何もなく謎は謎のまま深まっていくばかりです。

ただ田辺さんも佐伯さんも岸田さんに恋心、もしくはそれに近い感情を抱いていたのではないかと思います。

岸田さんが佐伯さんと一緒にいる様子に田辺さんが嫉妬しているような描写も見受けられらので、意外と可能性はあるのではないのかなと。

最後、田辺さんは何か安堵していましたが、何かに気が付いて確信を持ったということでしょうか?

読者は不安なままなのに勝手に安堵されても困ります。

こんな言葉は適切でないかもしれませんが、この第四章が個人的に一番のお気に入りです。

最終夜 鞍馬

語り部は大橋君。

反転する『世界』の物語。

『ゴーストの絵』

最終章では岸田さんについてようやく深く掘り下げられるようになります。

そんな中で出てきたのが『ゴーストの絵』。

『ゴーストの絵』に登場人物を当てはめるとしたら、若い娘=長谷川さんで絵描き・殺した犯人=岸田さんでしょう。

岸田さんは長谷川さんを殺していたのかもしれません。

そして『夜行』には女性の姿など描いていなかったのではないでしょうか?

夜は明けたか?

『夜行』と対をなす作品『曙光』。

失われた現実とは異なる理想的な世界。

世界はつねに夜なのよ

結果的には大橋君は元の世界に戻ってきたようですが、岸田さんと長谷川さんがいない現実は変わっていません。

夜とは何なのか?正体が分からないということがこれほど怖いとは思いませんでした。

まとめ

読み終わってスッキリという感想は一ミリもなく「結局何が分かって、何が分からなかったのか?」ということすら分からず、ただただ恐ろしかったです。

ふと時計に目をやると思っているほど時間が経過していなかった。自分が驚くほど『夜行』という世界に深く深く浸かっていたということに気づきました。

『夜行』という意味を理解できたのか?と聞かれたら、「全く分からない。」と答えるしかありません。

ただただ、長い夜の中にいた気がする。

「夜行列車の夜行か、あるいは百鬼夜行の夜行かもしれません。」

本当に読めば読むほど謎が深まっていく。何が真実なんだろう?と思いつつ、分からないままページをめくる手は止められない。

そんな作品を見たのは『進撃の巨人』と『HUNTER×HUNTER』くらいなものです。

「ホラーでおすすめの作品は?」と聞かれたら自信たっぷりに『夜行』と答えることにしよう。

そう決心させられる物語でした。

最後に

夜行列車で旅したい。

 

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