覚えのない電話を無視していたら、家賃滞納の連絡でした。
おはようございます。あっしゅ@oborerublogです。
緩やかに崩れ壊れていく美しき破滅小説に出会いました。ので、感想を綴ります。
作品は、李龍徳『死にたくなったら電話して』です。
- 人生なんてくだらない。
- 毎日が生きずらい。
- 世の中に絶望し続けている。
上のように、日々を厭世的に捉えて過ごしている方は驚くほど惹かれる作品だと思います。
惹かれすぎて溺れないようにと、注意書きをしたくなるほどです。
ネタバレ含みます。ご容赦ください。
『引力があるんですよ、負の方向に。』にゃんたこ推薦
私が本作品を手に取ったきっかけは完全にこの人の影響です。人生の節々で毎度毎度、歪んだ価値観をより歪ませてくれます。
Youtuberとして、エッセイ本著者として、活躍するにゃんたこ。
酒を呑み、パチンコを打ち、玉ねぎを切り、字幕だけは文学的。
そんな趣旨もよく分からない動画が好きで私は定期的に繰り返し視聴しています。
本作品を紹介する動画内でにゃんたこは「今年、これ超えるインパクトのある本はないんじゃないかな?」と、言葉を残しています。
別の動画では著者である李龍徳と対談もしていますので、興味のある方は観ると作品に対する解像度が上がるかもしれません。
にゃんたこを追ってて良かった。
『死にたくなったら電話して』で検索したら
実は表題で検索をしても一番上にこの作品は出てきてくれないんですよね。
一番上に出てくる検索結果は『厚生労働省の自殺対策電話相談』でした。
確かに間違っていないな、と同時に本作品を読む層がこの窓口を利用することは絶対的にないとも感じました。
読んでしまうと、自殺対策など内容と見事に真逆であることが分かります。
『死にたくなったら電話して』
作品に対する第一印象はどうでしたか?。表題だけ見ると、救済の物語が展開されるような気がしませんか?
死にたくなった主人公が電話することで生きる希望を見出す、という全然面白くなさそうな物語がそこにはありそうです。
確かに初美は救済を提示しました。
「死にましょうよ。心中しましょう。それが私たちの取れる唯一の脱出策です。唯一の、まともなままでいられる生き方。意志と目的と結果が一致してしかも成功の一点がそのまま永遠となる唯一のアイディアです。ね?心中しましょうよ。」
表題は正しいです。言葉が足りなかっただけで。
『死にたくなったら電話して。一緒に死にましょう。』
今なら後ろ半分がカッコ書きとなって表題が目に映ります。
電話したら死神に繋がる。
少し言い過ぎな感もありますが、読んだ初美の印象はまさにそれです。
にゃんたこも『引力』という単語で彼女を表現しました。
もう私は今後、希死念慮を覚えても電話をかけることはできません。
たとえ国が安全を担保する厚生労働省でも。
三回に一度は死神につながるから。
本棚に何を陳列させるか。
初美の言葉の中でも指折りで印象に残るもの。
「そこに人間の悪意をすべて陳列したいんです。」
末恐ろしいことを微笑みながら語る彼女が容易に脳裏に想像できます。
読みながら私は嫉妬しました。
私の本棚にはコンセプトがない。日本作家中心の小説、ジャンルが偏りすらない漫画、建築と会計の教科書群。
棚はただそれらを並べるためだけの家具でしかない。
正しい用途で正しく使用している。全く持って問題ないが、初美はそれだけではありません。
並べる中身と目的が明確で私には美しく映る。
これに影響されてしまって、本棚の中身を厳選し限定したところで初美の二番煎じになるだけ。
自分を出そうとしても、自分とは程遠い。
羨ましくて恨めしい。
普通という初美の枷と不可解な結末。
初美がコンプレックスとして挙げているものに『普通の家庭』があります。
普通という単語からは大多数とか安定などが連想されるでしょう。
多くが好意的に捉えるそれを、彼女は頼りないと表現した。
「トラウマとかDV体験とかそんなん、一種の杖やと思います。心のバネになったり言い訳にもできたり、アクセサリー代わりにしてる女の子もいてるし。あと、現代の流行病にのれてる感もある。私にはそれがない。」
劇的への欲求。
普通で固められてしまったからこそ、一線を画すところにあるそれらが初美には鮮やかに映っていたはず。
- 子供のころ貧乏だった。
- 親が離婚した。
一見、マイナスにしか捉えることができない出来事たちを初美は当事者の支えるものだと言います。
理解できる人は意外といると思うし、実はそれほど異常ではない気もします。
私も普通であると友人に直接言われるくらいには普通です。
世界的に見れば私たちの普通がどれほど特別であるかは明白ですが、普通で押し固められた人間がその特別さを明確に認識するのは容易ではありません。
だからこそ劇的を渇望し、普通からの脱却に意識が向きます。
私がまさにそれです。
初美もそういう要素を多分に含んでいるのではと感じました。
ここで一つ、違和を感じる部分が出てきます。
終盤の一節。
「だって、うちの親、徳山さんが”在日”なのが引っかかてるみたいで」
普通を嫌い、世界を嫌うはずの初美が親の言いなりになっている。
自分を貫き通す強靭な軸を持っているように見えた初美がです。
親の言葉を鵜呑みにするような人間か?
と、徳山は指摘していましたが、私は親に対して初美は従順だという見解です。
- 普通の最大値であるかのような京都大学合格。
- 誰もが羨む場所から多くが蔑む夜の街へ。
- 人間関係を断ち切り、一番近くの人を落差最大で叩き落す。
およそ普通と呼ばれる人間がする行動ではありませんが、すべて高校生以降の話です。
幼少期に親から刷り込まれる普通は何だろうと考えました。
親に言われたことを守る。
普通に育てられれば、これは脳に焼き付くように染み込んでいく。
それはまるで洗脳のごとく。
少しイレギュラーな道に進もうと、すぐに変わるものではありません。
そうは考えられませんか?多少暴論でしょうか。
私は社会人になってから、友人からの発言で衝撃を受けたことがあります。
私「もう帰るね、親に遅くらないよう言われてる。」
友「私たちもう大人だよ。なんで親の言いなりなの?」
スケールもベクトルもまるで違うかもしれないが、私の体験に通ずるものがあるかもしれない。
無意識化で意思決定を絞られていると私は思います。
初美の不可解な言動は普通に育ってしまった遺恨と反動ではないか。
幸せを遠ざけているような、幸せを赦さないような。
そんな仮説を立てては崩し、を繰り返しています。
今日も私の脳内会議は忙しい。
まとめ:人間性を自ら壊したいときに読もうかな
本作品に感情移入し過ぎると人間性が音を立てて壊れていく気がしてなりません。
ただ、自分が本当に辛いときに傍に置いておくと優しく寄り添ってくれる安心感があります。
今回の感想まとめ。
- にゃんたこが私をいつも狂わせる
- 自殺の電話はもうできない
- 本棚に何を陳列させるかが私の一生の課題
- 普通の枷からの脱却で初美は歪んだ説あるかも
初美の言葉は単に小説の人物から出てくるものとは思えないほどの重みを感じます。
間違いなく私を形成する一冊になりました。
血となり知となり骨となり。
公園のベンチで絶望した顔をしている大人にプレゼントしたいランキング堂々第一位です。
おわりに
死にたくなったらまた読みます。
最後まで読んでくれてありがとね。
あっしゅ@oborerublogでした。
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